親子で取り組む5つのしつけ
幼児期の「態度教育」

子どもが保育園や幼稚園に通う時期になると、「どう教育すればいいだろう?」や「しつけをするにも何からすればいいの?」という悩みが増えてきますね。

幼児期の教育で注目されている「態度教育」の第一人者である、松井先生に詳しく伺いました。

2歳児ぐらいから子どもは「いやいや期」と呼ばれる時期に入り、保育園や幼稚園に入園する頃には自我が確立されはじめ「好き嫌い」の判断をするようになります。自我が確立され始める幼少期の教育は子どもの社会性や協調性を養う上で、非常に重要な時期です。「態度教育」を取り入れて、自律した心の強い人間へと育てましょう。

子どもを甘やかし過ぎて、しつけを疎かにすることは子どものためにはなりません。将来立派な大人に成長するために、正しいしつけをしないといけませんね。

幼児期の「態度教育」とは?

態度教育とは?

態度教育を幼児期に取り入れることで、「自律した人間」に子どもを育てることができます。明るく元気で、素直でまじめで優しくて、一所懸命取り組む心の強い礼儀正しい子どもに育てたい。そう思うお母さんやお父さんは多いと思います。自分のことは自分で、みんなのことはみんなでできる生きる力のある子どもを育てる教育の基礎になるのが「態度教育」です。態度教育とは「挨拶」「返事」「履物をそろえる」「姿勢を正す(立腰)」「食事のマナーを身につける」の五つです。このあたりまえのしつけを徹底して子どもに指導していきます。しつけとは「礼儀作法をその人の身につくように教え込むこと」とあり、身を美しく(躾)とも表します。これが人間としての基礎になります。何事も基礎が一番大切です。この基礎を徹底して幼児期に身につけさせましょう。

態度教育の5つのポイント

POINT.1 挨拶

POINT.1 挨拶

挨拶は言うまでもなく人と人を結ぶ絆の第一歩です。笑顔で元気よく自ら挨拶できる子どもに育ってほしいです。挨拶のポイントは「ながら族」で行うのではなく、立ち止まって身体をその人に向け行うことです。子どもには「足をそろえて」と指導します。立ち止まって行うことにより、目の前の人に心が向き、丁寧な挨拶ができるようになります。

POINT.2 返事

POINT.2 返事

返事は「ハイ」です。漢字にすると拝啓の「拝」です。人を大切にし相手に敬意を表す語です。「ハイ」という返事はわがままを抑える効果もあります。自信を持って「ハイ」と返事ができる子どもに育ってほしいです。ハイの実践で子どもの心のコップが上に向き、素直な子どもに育ちます。

POINT.3 履物をそろえる(後片付け)

POINT.3 履物をそろえる(後片付け)

皆さんの家の玄関の靴の状態はどうですか。右に左に靴が散乱していませんか。靴をそろえるということは、後片付けと次への段取りの習慣につながります。整理整頓・清掃・清潔が大切です。 履物指導のポイントは両手を使うということです。片手でするのではなく丁寧に心をこめて両手で履物をそろえます。そのことにより物と心のけじめがついていきます。

POINT.4 姿勢を正す(立腰)

POINT.4 姿勢を正す(立腰)

姿勢を正すと気持ちが良くなります。姿勢を正すと健康にも良いのです。姿勢を正すとは腰骨を伸ばすことです。つまり、心身共に元気の源が姿勢を正す、腰骨を伸ばすことなのです。また、正しい姿勢を保つには自分の心と身をコントロールしなければなりません。わがままをおさえる意志の力も養います。

POINT.5 食事のマナーを身につける

POINT.5 食事のマナーを身につける

食育で一番大切なことは「命」への感謝です。命をいただくことによって私たち人間は生かされていることを伝えないといけません。そして食を中心にした前後のしつけも大切です。前はトイレです。後は歯磨きです。これをしっかり指導します。
そして、箸の持ち方や手を合わせ「いただきます」の挨拶などの食のしつけもしっかり行います。食事の手抜きは致命的です。愛情は「食」に表れるといいます。食事は愛情です。食事は命への感謝です。

態度教育の第一人者
松井直輝先生へインタビュー

松井直輝先生へインタビュー

育児制度アドバイザー高橋智也(以下、高橋) 育児制度アドバイザーの高橋です。よろしくお願いします。態度教育を幼児教育に取り入れたきっかけは何ですか?

学校法人泉新学園 松井直輝先生(以下、松井先生) よろしくお願いします。態度教育は森信三先生の「しつけの三原則」を参考にしました。この三原則は挨拶・返事・履物を揃えるという内容で、他にも先生は「立腰教育」をされていたんです。立腰教育は少し難しいかなと思っていたんですが、森先生が直接指導した、福岡の仁愛保育園を見学した時に子どもの姿勢の美しさに感動したんです。これは取り入れないといけないと思い、三原則の挨拶・返事・履物を揃えるに加え、立腰も取り入れることにしました。そして、かねてより重要視していた食事を加えた5つを「態度教育」としました。

高橋 森先生の教育方針を規範としながら、松井先生独自に食事を取り入れたのですね。食事を取り入れるきっかけはあったのですか?

松井先生 食事は後から付け加えたようなものなので、少し弱かったんです。そんな時に福岡の高取保育園に見学に行きました。「はなちゃんのみそ汁」で彼女が卒業した保育園です。西園長先生は40年以上も食事に玄米和食を取り入れているのですが、そこでまたショックを受けました。子どもがとても落ち着いているんです。落ち着くといっても他とは少し違うんです。教育方法の違いなど考えていても、食べ物ぐらいしか大きく違う点がないので、これはしっかりと取り入れないといけないと思いました。その後、西園長にマクロビオティックの料理学校が大阪にあることを教えていただき、初級・中級・上級と進み師範科を出ました。実は今ではこの食事を中心として教育を展開しています。

高橋 食事で子どもがそこまで変わるんですね。いわゆる食育というものですね?

松井先生 そうです。私共が運営している幼稚園3園全てで自園調理し、無農薬の玄米和食を中心としたメニューを基本としています。無農薬の玄米と、年長の子どもたちが作った無添加のお味噌をもとにしたお味噌汁、下仁田納豆、あともう一品という内容です。面白いことに、普通の給食から玄米和食に変えたときに、一番人気があったのは味噌汁と納豆なんです。胡麻と海苔とシラスが入った納豆なんですけど、これがとても人気がありました。なぜ味噌汁と納豆が人気なのかとよく子どもたちを見ていると、噛まなくていいからなんですね。玄米は柔らかい白米に比べて噛まないといけませんから。

高橋 白米に慣れてしまっていて、子どもたちに噛む習慣がなかったのですね。食事もそうですが、各家庭でお母さんやお父さんが出来る態度教育はありますか?

松井先生 すごく簡単なことです。「当たり前」のレベルを上げるんです。当たり前というのは、例えば家族揃っての朝ごはん。出来れば玄米や無添加の味噌を使った和食をメニューに入れることです。味噌や納豆というのは、世界的にも認められた健康的な食材です。食事を通して色んなしつけをすることが出来ます。その他にもまず出来ることは「挨拶」です。一つずつ絞って教えていけばいいのですが、例えば朝の挨拶は絶対するといったような家庭内のルールを作ります。返事も「はい!」とはっきりとするのがとても大事です。お子さんに「ママ~」と呼ばれたら「はい!」と返事をしてあげて、しゃがんで目を合わせて「どうしたの?」と聞いてあげます。そうすることで、愛される実感がぐっと増すんです。挨拶は心を向けると言います。止まってしっかり目を見て、出来ればしゃがんで挨拶してあげてください。

高橋 大人が手本を見せるんですね。

松井先生 そうです。子どもは大人の真似をして成長していくものなので。幼児期の経験というのは魂に刻まれ、脳にしみこんでいくんです。高橋さんは目玉焼きに何かけて食べますか?

高橋 醤油です。

松井先生 いつからですか?

高橋 物心ついたときには醤油かけてました。

松井先生 なんでですか?お母さんが醤油かけてたからじゃないですか?お母さんが醤油やったら子どもも醤油、お母さんがソースやったら子どももソース、お母さんがおはようって言ったら子どももおはよう、お母さんがおはようございますって言ったら子どももおはようございます。幼児期で一番大切なのは基本的な生活習慣なんですよね。

高橋 なるほど。「おはよう」を「おはようございます」にすることで当たり前のレベルが上がるんですね。体の一部のようになっていく感じですね。

松井先生 親の背中を見て育つって言いますよね?ですから、幼児期に大切なことは、家族揃って朝ごはんを食べるであったり、挨拶や返事、履物を揃えるという生活の当たり前を上げることです。お金なんていっさいかからないんです。親が見本を見せてあげることが大事です。口うるさく言うのではだめです。普段から親がきっちり靴を揃えるなど見本を見せてあげることで、他所の家に行くと子どもが勝手に靴を揃えるようになってます。

松井直輝先生へインタビュー

高橋 育児初心者のお母さんにはいきなりしつけをするのは難しいと思うのですが、しつけをする上での注意点などはありますか?

松井先生 押しつけにならないようにしないといけません。「勉強しなさい」「宿題しなさい」と口うるさく言うと、隙があればサボろうとしてしまいます。高橋さんは「勉強しなさい」と言われました?

高橋 言われました。

松井先生 その時部屋に入って何してました?

高橋 マンガ読んでました(笑)

松井先生 「勉強しなさい」と言われたらマンガ読むんですよ。今の子はスマホですね。仕事でも口うるさく言われると車停めてサボるんです。自発性がないんですね。自分からあれがしたい、これしてみたいという自発性はとても大事で、自己肯定感につながるんです。セルフエスティーム、自尊感情とも言いますが、子ども自身がやりたい事をやらしてあげるのが大事です。「やったぁ!できる!よっしゃぁー!いいぞー!」みたいに、自分のいいところをいっぱい知ってる、そんな子どもは心の強い子どもに育ちます。

大らかにというのは難しいと思いますが、いろいろ試してみたらいいと思います。子育てに成功した親はいません。子育ては実験ですから。一人目の子がこうやったから二人目もというわけにはいかないのが子育てです。朝きちんと挨拶をする、名前を呼ばれたら返事をする、履物を揃える、それと姿勢はとても重要です。ちょっとずつでいいので、優しく教えてあげましょう。もちろんこれにはお父さんの協力は絶対必要です。

しつけというのは流れる川に字を書くようなもので、書いては消され書いては消されの繰り返しです。一回や二回でうまくいかなくても子どもの将来のためと思って、愛情をもって繰り返すことが大事です。

高橋 最後になりましたが、子育てに対し悩みやストレスを抱えるお母さん、またこれから母になる上で、不安や希望を持つ皆さんに向けてアドバイスをお願いします。

松井先生 子育てに成功した親はいないって先ほども言いましたけども、完璧にしなくても大丈夫です。子育てに成功した親はいないんですよね。子育ては実験ですから、失敗がつきものなんです。でも、失敗して諦めてしまったら、本当に失敗になってしまい、子育て放棄になってしまうので、失敗したら「これはアカンかってんな、じゃあ次の方法やってみよう」と別の方法を試してみればいいんです。どうも、一つの方法をずーっとやりはるんですよお母さんって。選択肢がないんですね。不幸っていうのは選択肢がないことなんです。例えば、「勉強しい勉強しい」って言います。でお母さんに「子ども勉強すんの?」と聞いたら「勉強しないです」と答えます。しないのなら、勉強しいっていうのやめて他の方法を試すことをすすめています。

そういった子育てに関することをいろんな人達と話し合うことが大切なんですよ。べつに解決しなくてもいいんです。そんなことを、おばあちゃんとかと近所の人と話をすることで、心もちょっと落ち着いたりするんですけど、最近そういうことが少ない気がするんですよね。自分一人で考え込まないことが大事です。

松井直輝先生のプロフィール

松井直輝先生のプロフィール

大阪生まれ。佛教大学社会学部を卒業後、学校法人泉新学園に勤務。97年、国際TA協会公認の交流分析士(教育)の資格を取得。99年には国際TA協会公認の准教授メンバー(教育)の資格を日本人で初めて取得。
2001年、学校法人泉新学園の学園長に就任。晴美台幼稚園(大阪府堺市)、城山台幼稚園(和歌山県橋本市)、三石台幼稚園(和歌山県橋本市)以上3園の園長と城山台幼稚園に併設するバンビーノ保育園を運営する社会福祉法人泉新会の理事長を兼任。

現在、教育システム研究所の所長ほか、子育てと教育支援のNPO法人エンジェルサポートアソシエーションの理事長など多岐にわたって活動中。
2012年1月より大阪府松原市の教育委員に拝命。6月、泉新学園理事長に就任。

  • ◇主な役職◇
  • ・学校法人 泉新学園 理事長 学園長
  • ・社会福祉法人 泉新会 理事長
  • ・NPO法人エンジェルサポートアソシエーション理事長
  • ・(株)教育システム研究所 所長
  • ・国際TA協会 准教授メンバー(教育)
  • ・TA教育研究所 常任理事
  • ・社団法人 日本幼年教育会 理事
  • ・大阪市北区倫理法人会 相談役
  • ・大阪府松原市 教育委員
  • ◇著書◇
  • 幼稚園園長が書いた子育ての本
  • 幼稚園園長が書いた子育ての本 ~あかんおかんの共育問題~
  • ・2006年8月16日発行
  • ・発行:ホンブロック(アソブロック株式会社内)
  • お父さんのための1日10分、本気の子育て
  • お父さんのための1日10分、本気の子育て
  • ・2007年9月20日発行
  • ・発行:幼年教育出版株式会社