赤ちゃんを匿名で預ける

育児放棄や児童虐待に対し、イクハクができることを当初から模索してきました。
ショッキングなタイトルですが、一つの道として、極限に悩む保護者の方へ1人でも届けば幸いです。

今回は、育てられなくなった赤ちゃんを匿名で預けることのできる、日本で唯一の赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)を設置されている、熊本の慈恵病院副院長、蓮田健先生にお話を伺いました。

慈恵病院では、望まない妊娠により悩みを抱えている人のための相談窓口、SOS妊娠相談(24時間対応)も開設されています。

慈恵病院副院長
蓮田健先生へインタビュー

蓮田健先生へインタビュー

こうとりのゆりかごの設置から10年、何か思うことはありますか?

設置当初はかなり反対されたシステムでした。
一時期はゆりかご廃止の話も出たりした時期はありましたが、最近は落ち着いてきています。預け入れが多い時には年間30件ほどあったのが、最近は10件前後で推移しています。 全国に1つの施設としては少ない数字だと思います。理由として、若い方に知られなくなってきているということ、(貧困理由で)遠方で交通費がかかることが理由だと考えられます。
熊本県内においては、県警の方がおっしゃっておられた情報ですと、ゆりかごができて10年間、赤ちゃんを殺害する、遺棄するという事件は起こってないそうです。

先生のブログ内で、「あなたにとっていらない赤ちゃんでも、他の大人にとってはかけがえのない存在になりえる」とありました。本当になりえるのでしょうか。

毎日新聞の記事にありましたように、養護施設から養子縁組をした10~19歳の9割が「養親の愛情を感じている」との意識調査結果がでました。

こんなことがありました。
望まない赤ちゃんができたときにお腹の中の赤ちゃんを皆悪魔みたいに言うのです。早産の時期でもいいから早く産ませてくれと。ただ今お産されれば赤ちゃんは未熟児で生まれてくるので、非常にきつい思いをしますから、それはできないというお話をすると、当事者の方たちは「なんでそんなことできないんだ」という話になるわけです。
その人たちにとっては「いらない赤ちゃん」なわけで。
一方、特別養子縁組の場合は逆です。

産婦人科医として分娩に立ち会っていて思うのですが、初めて赤ちゃんと養親さんが対面する時、(血縁関係のある親子の一般的な出産シーンに比べて)養親さんの方が愛情が深いのではと思うことが何度もありました。
ほとんどのご夫婦が長期間の不妊症治療を経験されています。それでも赤ちゃんを授かることがなく、特別養子縁組に至っています。数々の至難を乗り越えての赤ちゃんですから、感激もひとしおだと思います。

日本の社会では、いまだに特別養子縁組が広く受け入れられていません。アメリカと比較すると歴然です。「他人が産んだ子を受け入れる」というのは、日本ではまだ勇気のいることです。そんな中でも、特別養子縁組に飛び込んでくるご夫婦には、それなりの愛情や優しさがないとできません。
切羽詰まったお母さんのお腹にいる赤ちゃんの行く末を心配することは少なくありませんが、数年後にニコニコした坊ちゃん、嬢ちゃんに成長した姿を見ると、ほっとします。
特別養子縁組の素晴らしさ、ありがたさを感じます。子どもはそんな存在になりえるということです。

蓮田健先生へインタビュー

「できる人」「恵まれている人」「大きな失敗をしたことがない人」がいわゆる正論をもって実親を批判することがあります。しかし私個人としては、「あなたにはできるかもしれないが、世の中にはあなたのようにできない人もいる」と書かれてますね。

慈恵病院の電話相談事例を振り返ると、実親に説教をしても、多くの場合はプラスに向かいませんでした。敬遠され、最後は音信不通になってしまうことも。頼るところもなく追い詰められると、人知れず赤ちゃんを遺棄したり、殺したりにつながりかねません。
何より、赤ちゃんの命と健康を確保することが優先されます。

実親の立場に立ってみると、彼女たちは既にダメージを受けています。ほとんどの母親が事の重大さを理解し、後悔し、焦っているのに、わざわざ他人が追い打ちをかけるように怒るのは疑問です。怒った人の義憤を晴らすことはできても、実親や赤ちゃんのためにプラスになったとは思えません。

また当院のSOS妊娠相談(24時間・365日稼働)に、批判の長電話が掛かってくることがあります。こちらからすると、今、この電話が通話中で困っている親が・・と思いますが。

虐待やネグレクトで養護施設に預けられる事例が増えていますがどうお考えですか?

電話相談の中で、虐待関係の話も度々いただきますのでそれも心を痛めています。生まれて一か月以内の赤ちゃんの虐待死の6~7割の母親は望まない妊娠だったというデータを厚労省が出しています通り、私どもの電話相談も切っては切れない関係だと思っています。

新生児だけでなく、これ以上子どもと居たら無理心中しそうだというお母さんに来ていただいて、保護したりというケースも年1・2回程あります。

蓮田健先生へインタビュー

なるほど、いろんなことが繋がっている感じがしますね。

私どもは単なるゆりかごの門番じゃなく、どうしてこのシステムが必要なのかというゲートの前の背景や、ゲートをくぐった後の育成の両方を理解したうえで運営すべきだという思いがあります。

そうなるとどうしても子どもの貧困に行きつきます。それでこども食堂の取り組みも始めました。私は個人的にはこども食堂は企業が社会貢献の一環としてやるべきだと思っています。企業だと建物と資金とマンパワーなどという、運営に必要なものを兼ね備えていますし、病院だとある程度信用があるので、企業、特に病院が取り組むべきである。そういう前例を作りたいと思って取り組みました。

預けられた子どもたちに対し、親のような気持になられるんですか?

自分の子どもが6人いますし、赤ちゃんはずっと見て来ましたので他人事ではないです。ですから、今後家内と里親の登録をするようにしています。
赤ちゃんが特別養子縁組に行く間のつなぎ役として、行き場のない赤ちゃんをうちで育てようかなと。赤ちゃんには幸せになってほしいし、赤ちゃんの役に立つという観点でやろうという話です。

これから里親の面接や研修があったりといろいろ大変なんですけど、児童相談所の所長さんからは「特別扱いしませんよ」と言われています(笑)。しっかりがんばります。

取材を終えて

望まない妊娠や、産みたいけど育てられない、出産直後でどうしたらいいのか分からないという方、慈恵病院のSOS妊娠相談(0120-783-449)に相談してみてください。「あなたにとってはいらない子どもでも他の親にとってはかけがえのない存在になり得る」ことを誰よりも知っておられ、「ここに来る方は既にダメージを受けている。追い打ちをかけるべきではない」とおっしゃる先生です。安心して相談してください。

10年間、孤独な戦いを続けている慈恵病院。こうのとりのゆりかごの運営費用は、年間2,000万円だそうです。そのうち800万円が寄付によるもので、1,200万円が院の負担。公的な資金援助は一切なく、現在も続けておられる姿を見て、感銘と共に日本の現状が垣間見えた気がしました。こうのとりのゆりかごが発していることはシンプルで、「子どもの命より大切なものはない」ということ。

それを実践されている信念の取り組みが、熊本市では児童相談所・警察などの協力を得て維持されています。皆さん、法や倫理の話の前に、まず子どもの命に向き合いませんか。もちろん私もです。秘密にしなければならない出産、望まない出産は、どんな時代でも必ず発生するでしょう。今、慈恵病院が無くなったら確実に子どもの命が危ぶまれます。1民間の医院に日本中の子どもの「最後の砦」を任せて10年。見てみぬフリはもうできなくなってきています。

蓮田健先生のプロフィール

蓮田健先生のプロフィール

医療法人聖粒会 慈恵病院 副院長
平成7年九州大学医学部卒業、日本産婦人科学会認定医

熊本の産婦人科、慈恵病院で副院長を務める傍ら、日本で唯一の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を現場で支える。
こども食堂など新しい取り組みも精力的に実施。
2016年11月よりスタートした自身のBlog「こうのとりのゆりかご」の現場からは関係者ならずとも必読。