2023年度期待の新制度部門賞

隣の学校との合同授業 山県方式

山県市教育委員会

学校を存続させたまま、お互いの学校をスクールバスを利用し、児童生徒が行き来する。
市内全12校を「山県学園」とし、学習内容によって、どの学校との合同授業も可能にする新しい教育の仕組みであり、統廃合は行わない方向を選択した珍しい取り組みです。

団体紹介

岐阜県岐阜市(中核市)に隣接する人口2万5千人ほどの山県市。複式学級がある5小学校を含む,小学校9校、中学校3校いずれも小規模化が進む中、「学校の適正規模は一人一人にとって違う」をコンセプトに、学校間合同授業や校内異年齢学習など新たな義務教育の仕組みに挑戦する教育委員会です。

なぜこの取り組みを始めたのか?

2021年度の山県市の新生児は98人、いわゆる「学年100人時代」が到来。全国的に学校の統廃合が議論される中、市内の保護者等2000人を対象に、「山県の今後の教育への期待」についてアンケート調査を実施しました。

その結果、学級は20人程度、小規模校の良さである「個に応じたきめ細かな指導」と中規模校の「切磋琢磨する学習」をどちらも経験させたいという保護者の願いが明らかとなりました。

様々な学校統合シミュレーションをしてみるも、教員数の減少は必須であり、保護者の願いに応えられないことから、統合せず教育の質の向上を具現する新たな仕組み(第3の選択肢としての「山県方式」)を策定した次第です。

活動内容と効果

2023年度から,学習内容によって他校との合同授業や異年齢学習を使い分ける「山県方式」の小中一貫教育に乗りだしました。体育や音楽、英語の合同授業は高評で、運動会や修学旅行等の合同実施にまで活動は広がっています。

一方で、小規模小学校で守り続けている地域の伝統芸能の活動に、校区内の小中学生が参加したり、小学生の放課後勉強会の講師を校区の中学生が務めたりするなど、多様な学びの場が生まれ始めました。

山県方式実施1年は、子ども・保護者・教職員のいずれも「成果ありー継続」の評価となっています。

▲2つの小学校(6年生)の合同授業(社会)

▲2つの小学校(1年生)の交流授業(音楽)

▲人気の合同授業(5年生体育)

▲2つの中学校の合同授業(中学2年生総合学習)

▲全小中学校12校+地元の高校で「いじめについて考える日」特設オンライン授業

▲小学校の放課後勉強会の講師に校区の中学生がボランティア参加

▲全校30人で守る伝統芸能「十六拍子」も合同授業で伝統維持

これからの展望

2022年度は教育委員会が「山県方式」のアウトラインを策定。2023年度は12名の校長が合同授業を中核にした「山県方式」を具現化し、「山県学園構想」を策定しました。2024年度は、中学生が考える「山県学園構想」を3中学校で議論し、市長に提案する計画になっています。

こうして山県の教育は、実際には存在しない「山県学園」という学校のかたちをみんなで創り続けています。

このような取り組みを実施される方へのメッセージ

「学校の統廃合は地域の問題、教育委員会は教育の質の担保に責任を負う」を基本にし、提案型の議論を重ね,お互いに夢を語り、受容し合える関係性の構築が重要と考えます。

視察された方からは、「総論賛成、学校(教職員)は反対だろう、実現にはハードルが高い」とのご意見をいただきましたが、山県市教育委員会のスタンスは、「できることをできる範囲でやれば良い」に徹し、校長のプライドを信じています。

参考URL

山県市ホームページ

審査員総評

山縣 文治
  • 審査員長:山縣 文治
  • 関西大学 人間健康学部 教授
  • 少子化とグローバル化に対応するには、学校教育も変化する必要があります。学校を超えた協同学習の取り組み、WEBの活用も含め、これからますます広がっていくと思いますし、広げなければなりません。
島田 妙子
  • 審査員:島田 妙子
  • 一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO 理事長
  • 小さな村や町の学校の悩みを聞いてきた中で、小・中学校の子どもたちが少ない人数のままクラス替えもなく、小さな世界で小さなコミュニケーションだけで過ごすことを心配されている学校がたくさんあります。この制度は、子どもたちの視野や世界、多様性を理解するためにも素晴らしいと感じ選考させていただきました。
LICO
  • 審査員:LICO
  • 作家・ブロガー・子育てアドバイザー
  • 大きく1つにまとめるのではなく、小さい規模のままお互いを行き来することで、自分(自分の学校)とは違う価値観や環境を味わうことができるというのが素敵だと思いました。
LICO
  • 審査員:竹田 こもちこんぶ
  • 5児の兄弟の子育てネタでTikTok・執筆など多方面で活躍中
  • 統廃合ではなくどちらも残したまま、受ける授業によって行き来できるようにするなんとも風通しの良い新しいフリースクールのような柔軟性がなんとも魅力的。
    生徒自身が選べる余白があるということは、行き渋りや不登校も減らせるかもしれない。
LICO
  • 審査員:安木 麻貴
  • (一社)日本子育て制度機構 育児制度アドバイザー しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西・神戸ウエスト代表
  • 学校の統廃合というのは子どもにとってだけでなく、大人にとってもコミュニティの場を失うことだと思います。子どもが学校に在籍している親以外に、広く社会に知ってもらいたい元気の出る取り組みです。
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