2023年度最優秀制度賞
在住外国人ママの産前産後サポート
特定非営利活動法人 Mother’s Tree Japan
「国籍に関係なく、同じ国にくらすすべての女性が安心して新しい命を迎えてほしい」という想いから、言語・文化・宗教・風習への理解に基づいたサポートを在住外国人ママが受けられるよう支援しています。
特に日本でのお産経験のある先輩ママが寄り添うことで心身共に安心して出産を迎えられるようなサポートをしています。
団体紹介
日本に暮らす外国人女性の産前産後・子育て期のサポートと多文化共生子育て社会を目指しています。
言葉の問題、文化・風習・宗教・システムが異なる中での出産と子育てに不安だらけです。
日本でのお産経験者の外国人メンバーと助産師がチームとなり寄り添って新しい命の誕生と子育てをサポートしています。
なぜこの取り組みを始めたのか?
この活動の発案者である事務局長が海外で苦労して自分を育ててくれている母親の背中を見て育ったことや外国人として様々な偏見や差別を感じて育ったことが設立の大きな背景としてあります。
日本には今年間20万人とも言われる外国の方が日本に夢を抱いて留学生として、社会の担い手として、その家族として来日していますが、当然そこにはライフサイクルがあり、暮らしがあります。しかし、サポート体制はまだまだ整っておらず、病院の先生のとのコミュニケーションの問題、情報不足、文化の違いによる不安感やストレス、ほとんどが日本語で書かれている山のような書類、手続きなど、壁だらけです。
また日本の多文化共生はまだ始まったばかりで、良かれと思って一方的に日本のやり方や文化を押し付けてしまう援助になりがちです(日本食を無理に勧める、など)。
せっかくご縁あって日本に来た外国人の家族に「日本で産んでよかった」「日本に来てよかった」と笑顔で言ってもらえる社会にしたい、そして、せっかく日本で産むからには日本でもママ友を作って地域で楽しく子育てをしてお国の子育ての知恵も逆に私たちに日本人にもシェアしてもらいたい、そんな想いでこの活動を始めました。
活動内容と効果
活動内容としては、①寄り添い事業(病院・保健所・行政・地域活動)、②多言語での母親サロン、③産前産後・子育てに特化した日本語サロン、④多言語でのLINE相談、⑤オンライン母親教室、⑥ツールの開発と無償配布、⑦情報発信、⑧多文化共生イベント などを行っており、昨年だけで1750名をこえる外国人家族、そして260名の日本人家族の参加がありました。
毎回のイベントでのアンケートは全員から満足している、助かったという声をいただいており、昼夜を問わずサポートしてくれる外国人ボランティアメンバーの温かいサポートと献身が身を結んできています。各種マスコミも外国人ママの現状を取材してくださるようになり(すくすく子育て、NHKワールド、あさイチなど)、少しずつこの問題が認識されるようになってきて大変嬉しく思っています。
▲産前産後・子育てで使う日本語をみんな一生懸命勉強しています
▲助産師による母親サロンでは文化の違いなども楽しく話し合います
▲予防接種も外国人ママには大きなハードルです
▲多文化共生子育てフェスティバルには260名を超える日本人家族が参加
▲指差しで医療者とコミュニケーションを取れるツール
▲ラインで写真や動画を交えて助産師に多言語で相談できます
これからの展望
この少子化の時代に、私たちの社会を土台から支えてくれる外国人の方達がこれから年間20万人以上来日すると予想されており、家族連れで来られる方達が多くなっていくことがわかっています。そんな中で私たちのような小さな団体ではとてもサポートするには力不足なので、今は各市区町村でそれぞれの現状や規模に合った取り組みをしていただけるようにノウハウやナレッジ、ツールを共有して後方支援していく事業も展開し始めました。日本全国どこにいてもサポートの手が届くような社会になってくれたらと願っています。
また、外国人ママ達の抱えている問題の半数以上は日本人ママも感じている困難さと重なります。外国人女性にとってやさしい、子育てしやすい環境を整備することは、翻って日本人女性にとっても産み育てやすい社会を作ることに他なりません。そうした声を届けていくことも大切な役割であると感じています。
そして、外国人ママ達は実は世界各国の子育ての知恵を携えてやってきた世界のママ友でもあります。世界中の知恵を持ち寄って、既存の画一的な子育て像・ママ像から解放されて、誰もが自分らしい子育てを模索していける一助になるような「共育て」=多文化共生子育て社会の創造が、日本にもう一度豊かな子育ての森を育てることにつながると考えて日々活動しています。
このような取り組みを実施される方へのメッセージ
大変なこともありますが、外国人ママ・家族の多くはとてもフレンドリーで、たくさんの知恵を持った人たちで話をしていて発見がいっぱいの大変楽しい活動でもあります。そして、日本との文化の違いをどうやったら双方にいい形で理解してもらえるかを考え続ける中で、自分たち自身が大きく成長させてもらえていることに気づきます。
「無事に産まれました!」「アドバイス通りにやったら安産でした」「赤ちゃんの悩みをみんなで話せてよかった」というお知らせをいただくと、苦労があっても全て吹き飛んでしまいます。どうぞご一緒にタグを組んで、誰もが安心して赤ちゃんを産める日本、そして、みんなで手を繋いで自分らしい子育てができる社会を作って行ってくださると嬉しいです。
参考URL
NPO法人Mother's Tree Japan 公式ホームページ
審査員総評
- 審査員長:山縣 文治
- 関西大学 人間健康学部 教授
- ニーズの総量が少なければ、公的な制度は充実しにくいものです。出産だけでも不安なはずなのに、言語が通じにくければさらに不安。この活動は、ニッチな支援の大切さを私たちに教えてくれます。
- 審査員:島田 妙子
- 一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO 理事長
- この国に暮らす人すべてが大切だと思ってくださる制度ですね。習慣や言葉の壁はやはり不安な気持ちを大きくさせてしまいます。全都道府県で導入していただきたい制度だと感じ選考させていただきました。
- 審査員:LICO
- 作家・ブロガー・子育てアドバイザー
- 不安を感じてから駆け込むのではなく、最初からみんなが当たり前に尊重されるようにと取り組まれているこのような素敵なサポートが、今後日本においてスタンダードになったら良いなと思います。
- 審査員:竹田 こもちこんぶ
- 5児の兄弟の子育てネタでTikTok・執筆など多方面で活躍中
- ただでさえ不安な出産。それも異国の地ともなると輪をかけて困難を抱えるであろう外国人ママ達の産前産後を、日本人が全力でサポートするという素敵さよ。そんなインクルーシブの精神が広がり日本の社会全体を包み込めば、誰一人取り残されない誰もが生きやすい社会となるに違いない。
- 審査員:安木 麻貴
- (一社)日本子育て制度機構 育児制度アドバイザー しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西・神戸ウエスト代表
- 同じ女性として、出産時のサポートの必要性を感じます。子どもを育てていく母親たちへの丁寧なサポートがのちの子供の成長にまで、大きな影響を与えると思います。言葉の壁・文化の違いを乗り越えられる女性たちに期待します。