2023年度少子化対策部門賞
妊娠・出産・産後をシミュレーションするボードゲーム「サンゴクエスト」
サンゴクエスト開発チーム
人生で初めての妊娠、出産、そして迎える激動の産後期。パートナーとの対話を重ねてそれらの時期を乗り越え、1人でも多くの人に子育ての楽しさを実感してほしい——。そんな想いを持つ多様なメンバーが集まって開発したボードゲームです。
2023年6月にリリースし、認定ファシリテーター研修も定期的に開催しています。
団体紹介
このゲームの開発のためにプロジェクトベースで集まった、発達科学の研究者・助産師・社労士・学校教員・地方議員・子育て中の会社員・ゲームデザイナーなどで構成するチームです。
1人でも多くの人が子育ての楽しさを実感でき、仕事と子育てを両立しようとする人たちがより働きやすい社会の実現を目指しています。
なぜこの取り組みを始めたのか?
赤ちゃんの誕生は多くの人にとって喜ばしいことですが、その一方で、出産後にはパートナー間の関係性が急速に悪化してしまう「産後クライシス」と呼ばれる状況を迎える夫婦・カップルが多いことも知られています。
こうした状況が起こる要因としては、産後の女性のホルモンバランスの変化、急激な生活の変化によるストレス、家事・育児分担率の偏り(多くの場合は男性の分担率の低さ)などが挙げられます。
また、最近の研究では、育児を頑張りたいと思っていてもその気持ちに行動が追いつかない男性が一定数いることや、単に家事・育児の分担率などを相談・調整するだけでなくお互いの価値観について対話する機会を持っているカップルの方が、長期的に関係がうまくいきやすいということが分かってきました。
こうした現状認識を背景として、妊娠・出産・産後の予習(あるいは振り返り)や、夫婦・パートナー間での対話の習慣付けなどを、楽しさをベースにした「ゲーム」という体験の中で自然に実現できないか?と考えたメンバーたち(当事者として産後クライシスに近い状態を経験した人も複数名います)が開発したのがサンゴクエストです。
活動内容と効果
2023年6月にゲームを完成させ、7月からゲームを活用したい方向けの認定ファシリテーター研修を開催しています。
ゲームは個人で購入してご家族や友人知人など身近な方とプレイしていただくことも可能ですが、ファシリテーションの上でいくつか工夫や配慮が必要で、ワークショップ用教材としての側面を持つゲームでもあるため、ゲームを利用したイベント・授業・研修などを実施される可能性のある方には事前にファシリテーターを取得していただいています。
2024年5月時点では、全国で約140名の方が認定ファシリテーターとして活動されており、2000名以上の方にゲームを体験していただくなど、社会課題にアプローチする内容のゲームとしては早いペースで普及が進んでいます。
実際にゲームを体験された方の感想として、妊娠期のご夫婦からは「産後のこともお互いのことも知れる良い機会になった」「育児に積極的なパパになれるように今から気を付けていきたいと思った」、産後期のご夫婦からは「妊娠期から今までをしみじみと振り返ることができた」「お互いに思っていたけれど言えなかったことを言葉に出せて良かった」、中高大の生徒・学生さんからは「これまで意識することがなかった妊娠・出産・育児が身近に感じられた」「将来のキャリアを考える中で仕事だけでなく育児のことも考えていこうと思った」といった声が特に多く、ゲームを通して得られる学び・気づきについて、開発チームの私たちも手応えを感じています。
また、2024年度には京都府福知山市の妊婦さん(+ご家族の方)向け教室のコンテンツの1つとして採用されるなど、自治体の子育て支援事業にサンゴクエストを活用する動きも出始めています。
▲産後起こりうる様々なシーンがボードゲームに!
▲ファシリテーターを養成。体験会も行っています。
これからの展望
サンゴクエストは、産院の両親学級や自治体主催の産前産後教室、中学校・高校・大学での授業、企業・団体の管理職研修、地域の子育て・まちづくり関連団体のイベントなど、さまざまな場所で活用していただける内容になっています。
当面は、全国で活動される認定ファシリテーターの方の養成や、自治体による導入事例の増加などに力を入れ、より多くの方にサンゴクエストを体験していただける環境を整えていきたいと考えています。
このような取り組みを実施される方へのメッセージ
このゲームの制作資金は、2023年2〜3月に実施したクラウドファンディングによって調達しました。
当初はどれくらいの方に支援していただけるか不安な部分もあったのですが、結果的には想像以上の多くの方からご支援や共感の声をいただき、こうしたプロダクトへのニーズの大きさを実感しました。
一方で、社会課題にアプローチするボードゲームやカードゲームは数多く作られていますが、完成後の展開にあまり力を割けていない事例もよく見かけます。
こうした活動では、ゲームの完成はあくまでスタートラインで、社会実装がゴールだと思います。
サンゴクエストの場合は、認定ファシリテーターの皆さんが情報交換や交流をできるコミュニティづくりを行ったり、今後の展開に必要な最低限の収益を生み出せるビジネスモデルを組んだりすることで、息の長いプロダクトを目指しています。
趣旨の近い取り組みをされる方のご参考になりましたら幸いです。
参考URL
審査員総評
- 審査員長:山縣 文治
- 関西大学 人間健康学部 教授
- 遊び心満載のネーミングやゲーム性に感服。苦しいことや辛いことも遊びで少しは解消。熱中しすぎて、夫婦げんかになったり、子どもをほったらかしにしないように。それくらい、のめりこみそうな魅力があります。
- 審査員:島田 妙子
- 一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO 理事長
- お互い大切にしあい助け合いたいと思っている関係こそ、感情をぶつけ合ってしまうことがあります。この制度は、自分に気持ちや相手の気持ちを優しい気持ちで知ることができ、客観的に見つめあえるものだと思います。また、夫婦だけでなく、ボードゲームの内容を変えることで親子関係や職場等でも活用できるのではないかと選考させていただきました。
- 審査員:LICO
- 作家・ブロガー・子育てアドバイザー
- 産後は何かと余裕がないので、産後について予習をして共に学び、お互いの気持ちや考えを共有しておくのはとても良いと思いました!思いやりや想像力、対話が生まれる素敵なツールだと思います。
- 審査員:竹田 こもちこんぶ
- 5児の兄弟の子育てネタでTikTok・執筆など多方面で活躍中
- 一体どれだけの夫婦が、この先自分達に降りかかる難題を想像することができるだろうか。
これはすごろくという娯楽を使って夫婦間に起こりうる様々な課題をシュミレーションできちゃうなんとも素晴らしいアイディア。
なんなら両親学級の必須科目に加えちゃえ!
- 審査員:安木 麻貴
- (一社)日本子育て制度機構 育児制度アドバイザー しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西・神戸ウエスト代表
- 夫婦の価値観は産前産後にそれぞれの家庭で培ったものを修正しながら、オリジナルのより良き家庭の価値観になっていくと思います。ゲーム上、どんどん意見を戦わせ、冒険の旅へ!